ブログなのだろう

趣味あれこれをつづる予定です

袋ラーメンの話

f:id:nodalow:20180711115705j:plain

 

夜分も遅く妻が帰ってきた。

サービス業に従事する妻は急な来客応対で帰宅時間が一定しない。

一方、出先で食事を済ませ帰宅していた私は半目状態でぼんやりテレビを眺めていた。我が家の晩御飯のローカルルールとして、大幅(ここ重要)に時間のある者が食事の用意するという暗黙法がある。

 

「ただいま。」

「おかえり。」

 

声色がすでに空腹を訴えている。

暗黙法に従い、今日の私はセーフゾーン、即ち食事を用意しない側にいると認識している。しかし、有無も言わせない緊迫感がある。寝転んでいる場合じゃない。半身になってすぐに動ける状況を作る。

 

「ごはん食べてへんの?」

「めちゃくちゃおなか減った。昼も納豆しか食べてない。」

 

やはりそう来たか。冷蔵庫内、キッチン下収納の残存食料を思い出す。

卵に、卵、、、。だめだ、会話はレスポンス。間が空けば次の言葉を放り込まれてしまう。考えるより行動しかない。

 

「なんか食べる?作るで。」

「え、うーん。なんかあるの?」

「いや~あるやろ、確か卵に、、、」

 

返す言葉に合わせて立ち上がり、キッチンに進軍。攻撃は最大の防御、これで平然と食料を捜索できる。冷蔵庫に厚切りハムを発見。キッチン下収納にはパスタ、レトルトカレー、そして袋ラーメンがあった。

 

 

 

これだ。「チャルメラ豚骨バリカタ麺ニャ」だ。

まだ食していなかったが広瀬すずちゃん宣伝ということでストックしておいた代物だ。先に食われるのは癪だが夫としての名誉を守るためだ。早期投入するしかない。

 

袋ラーメンなら腕に覚えありだ。手際よく麺を茹で、卵とハムを強火でカリッと焼き、低温で黄身を蒸らす。テーブル胡椒と岩塩で軽く味付けしたら、ラーメン・オン・ザ・ハムエッグの完成だ。

 

袋ラーメンのスープは完成されているが、ハムの脂でコクが増しさらなる旨味へと昇華しているハズ。この傑作をあっさり明け渡すのにはいささか勇気がいたが、すでに腹をすかせた妻はテーブルにビール片手に鎮座している。

 

「おまたせしました~」

 

自信作ゆえに涼しい顔でサーブ。空腹にこの攻撃的なまでの豚骨臭、到底たえられるものではない。一息置く間もなくいきなりハムをがぶり。袋ラーメンに流儀はない。好きに食べればいい。そして麺をすするよどみのない音。

 

「うまっ!」

 

それはそうだろう。レベルの高い袋ラーメンのスープにテーブル胡椒のかかったハムをガーリックオリーブオイルで炒めた脂がINしているのだ。瞳を閉じ、ゆっくりとその場を立ちさろうとした刹那、続く言葉が。

 

「この麺うまっ!」

 

どういうことだ。スープではない?

勢いを増した麺すすりの音が止まらない。

そうか、「バリカタ麺ニャ」だったか。急がないと間に合わない。麺の進化を確かめなければならない。あくまでその気なしに近づかなくては。

 

「へ~そうなん。ちょっと頂戴。」

 

言葉の安穏さとは裏腹に、強い意志で箸を拝借。

すくいあげただけでわかるバリカタ感。そのまますすりこむとまず予想通りのスープの仕上がりが確認できる。コクがあり、しっかり豚骨している。そして麺だ。コシがあるともまた違う、バリカタ麺の歯ごたえ。これはもう博多の屋台ではないか。ええ、行ったことありませんが。

 

「あ、うまいなあ。」

「せやろ。」

 

取り乱す心そのままに箸とどんぶりを返す。袋ラーメンここまできていたか。

不思議な喜びと焦りに苛まれながら夜は更けていくのであった。