蕎麦あけぼのやの話
東京最終日(といっても2日目)は蕎麦を昼食にした。
昼食を取る予定ではなかったが日比谷で映画を見ようと繰り出したものの、好みの映画がなかったので仕方なくすべりこんだ。
高架下のチープ感があまりなくキレイな店づくりは好感触。逆に蕎麦屋に期待する老舗感はないが、そこはイーブンパーというところか。カウンター端に案内されメニューを一瞥。ここはやはり一番大きく表記されている「常陸秋蕎麦100%の十割そば」であろう。こちとら関西人なので蕎麦よりもうどんを義務付けられているので本格蕎麦は数えるほどしか食べていないので楽しみである。
さりとてまずはビール。付き出しに枝豆。準備は整った。蕎麦が登場。つやつやの蕎麦にセルフ山葵がうれしい。しかもこの木製スプーンに盛られた塩がニクい。まずは塩でお召し上がりくださいってやつか。
ではお望み通り塩で、っと思ったら箸がない。む、これは試されているのか?ここですぐに店員を呼ぶのは早計だ。以前同じ状態で実はカウンターに引き出しがついていて箸が出てきたパターンがある。カウンター下に手をまさぐる。何も引き出せない。カラの右手だけがむなしく現れただけだ。そうなると箸立てが何処かにあるのか?いや、この長いカウンターにひとつも箸立てはない。二本の指を硬化させようかと思ったが大人しく店員さんを呼ぶ。
蕎麦だ。まずは塩。蕎麦のような流体に塩をつけたことがないので配分が難しい。上からパラパラ、かかっているのかわからないがひとすすりする。確かに旨い。蕎麦の香りが鼻に抜ける、という言葉はよく聞くがその感覚はまだ知らない。それが蕎麦特有の香りなのかわからないが微かに香る。強い香りではないので蕎麦初心者の私では塩でないと捕捉できなかったと思う。
食感は十割ならではの歯ごたえと舌ざわり。咀嚼していくと旨味がわかる。次はつゆにつける。カツオだしか、濃いコクがある。なるほど山葵に合うはずだ。出汁の地域性についてケンミンショーレベルしか考えたことがなかったが、何となくこの醤油由来の濃さは関西出汁と違い山葵がマッチするとわかった。ここはショウガではない。
つゆ、塩、と連続して味わっていくとなるほど旨い。2~3本すくってすする様式美もしっくりくる。しかしやはり蕎麦ってのはすぐなくなる。おかわり700円とメニューにある。迷いどころ、思案しているともう食事が終わったと判断されたのか蕎麦湯を出された。タイムアップだ。仕方なく濃いつゆにぬるりとした白濁の蕎麦湯を注ぐ。
元来、汁もの大好き人間である。これは旨い。しかもこの山葵がすごい。香りが立つのにツーンとこない。先述したこの濃いつゆだから山葵がよく合う。ツーンとこないもんでどんどん入れてしまう。根元まで擦ってやろうかとガシガシする。そうやって蕎麦湯がなくなるまでガシガシやってると何やらおなかも満足気。
蕎麦湯を飲み干し暖簾をくぐると、肩で風切る江戸っ子気分。オヤジ、ごちそうさんとでも言わんばかりにバイトの青年に手を振る。暑くてかなわねえな、なんてぼやき、妻と帰路につくのであった。めでたしめでたし。